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アイリッシュ・ナショナルスタッド

アイリッシュ・ナショナルスタッドは、アイルランドの首都ダブリンから西方に車で約40分程度の、キルデア (Kildare)という町にある牧場で、1946年の創立以来、種牡馬を繋養してサラブレッドの生産活動を行うスタッドファームとして、アイルランドの生産界で重要な位置を占めている牧場です。
アイルランドには、世界の競馬シーンをリードするクールモアスタッドや、アガカーン4世が所有するギルタウンスタッド、シェイク・モハメド殿下のキルダンガンスタッドなど、素晴らしい牧場が数多くありますが、アイリッシュ・ナショナルスタッドも、これらに劣らない規模を持っています。広さは約980エーカー(約390万u)あり、その広大な敷地を用いて、サラブレッド生産の最盛期になると、出産や種付のため、300頭以上の繁殖牝馬、仔馬で一杯になります。

アイリッシュナ・ショナルスタッドは、ヨーロッパののサイアーランキングでいつも上位に入るインディアンリッジや、初年度産駒からG1馬を輩出し、期待のかかるデザートプリンスなどがいる、アイルランドでも有数のスタッドファームです。また、生産牧場としても成功を収めており、現在、日本に種牡馬として繋養し、産駒が活躍しているデザートキングを始め、多くの優秀なサラブレッドが、ここで生まれたという実績もあります。

アイリッシュ・ナショナル・スタッド・マネージメントコースについて

1971年、アイリッシュ・ナショナルスタッドは、優れたホースマンを育てるため、アイリッシュ・ナショナルスタッドブリーディングコースを開設しました。これは、毎年2月から7月始めまでの約半年間、サラブレッドの出産、種付、ファームマネジメントなどを集中的に学び、牧場経営の専門家を養成するための学校です。地元のアイルランドを始め、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ共和国、インド、そして日本など、世界中から学生が集まります。そのため、入学志願者の倍率も高く、入学するのに3年待たされた人もいます。また、卒業後は、世界中でOB(卒業できなかった生徒も含め)たちが作るネットワークが、ワールドワイドにビジネスを展開しています。多くの卒業生が、牧場経営者、エージェント、馬主、調教師、獣医、装蹄師として活躍しており、欧米のサラブレッド業界では「ナショナルスタッド卒業生」は大きな影響力を持っています。

コースは全寮制で、授業は基本的に一日の仕事が終わった夕方から、夜間学校の形式で行われます。出産の最盛期になると、朝6時半から夕方5時まで仕事をし、休みが2ヶ月に1日くらいしかないのは普通のことで、それでも授業は毎日5時半から夜遅くまで行われます。そこで、獣医学、解剖学、装蹄学、血統論、ファームマネジメントなどの講義を受けます。少ない時間の中、実習と学問を並行して身につけ、実用的なものだけを集中的に修得して行くのがコースの特色です。

これまで、毎年のように日本人も入学していますが、無事に卒業できる例は少なく、多くは卒業証書をもらうことができないのが実情です。

なぜなら獣医学、解剖学などの難解な授業の全てがアイリッシュアクセントの英語で行われ、なおかつアイルランド人の話し方はとても早口で、聞き取るのに一苦労だからです。一日の仕事が終わって心も体も疲れているのに、ただでさえ分かりづらい英語を、専門用語が飛び交う中で理解しなければなりません。その上、課程の最後に、全ての教科と実技について1回きりの筆記試験と口頭試験、そして卒業論文があり、一定以上の成績をとらなければならないのです。

コースには、「落第してまた来年」はありえません。ですから、途中でドロップアウトする者がいたり、英語の苦手な日本人はともかく、時としてアイリッシュ英語の大得意なアイルランド人でさえも卒業できないことがあります。
また、卒業試験の合否は卒業式の直前まで分からないというのもナショナルスタッドブリーディングコースの特徴です(卒業式の当日もしっかり働かされます。)。卒業式当日の午前中、厩舎で働いている最中に、校長のジョン・クラーク(JC)氏から、「コングラチュレーション」と耳元でささやかれた生徒だけが、卒業証書をもらうことができるのです。
何事もないような素振りで働きながら、一人一人Mr.クラークのささやきを順番に待っているときの心境はこのようなもので、牧場中が異様な緊張感で覆われます。

このような中で、朝から晩まで6ヶ月間、最後まで気合で生き残り、どうにか卒業証書を勝ち取った生徒は、体力的にも精神的にも相当タフになります。だからこそ、世界のサラブレッドビジネスをリードしていくだけの素養を身につけることができるのだと思います。また、一緒に過酷な日々を過ごした仲間は、尊敬できるホースマンとして、卒業後の交流も活発です。こうして、アイリッシュ・ナショナルスタッドを起点として作られるネットワークは、これからも世界の競馬を発展させて行くことでしょう。